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水戸地方裁判所 昭和47年(ワ)148号 判決 1973年11月30日

原告 シーボン化粧品東関東販売株式会社

右代表者代表取締役 尾上成司

被告 舟幡辰雄

右訴訟代理人弁護士 小林宏也

同 本多藤男

同 長谷川武弘

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し金二二九万四、八五〇円およびこれに対する昭和四七年八月一九日より完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は化粧品の卸小売業を営む会社であるところ、訴外寒川利明に対し昭和四三年九月一日原告会社の仙台営業所における財産および売掛代金等をつぎのとおり譲渡した。

1、原告会社仙台営業所名義の電話加入権を金三万五千円で譲渡した。

2、什器備品類を金九万五千円で売渡した。

3、同営業所が訴外管原光太郎からその所有ビルの一室を賃借するに際し同人に敷金として交付した金二〇万円の返還請求権を同人の承諾を得て訴外寒川に譲渡したが、同時に原告と右寒川との間で同人は原告に対し金二〇万円を支払うことを約した。

4、自動車一台を金二五万円で売渡した。

5、商品(化粧品)在庫分を金二五万円で売渡した。

6、同営業所は顧客に対し金一八三万五、一〇〇円相当の化粧品売掛代金債権を有していたところ、これを右寒川に債権譲渡したが、同時に同人は原告に対し同金額の債務を負担支払うことを約した。

よって、右寒川は原告に対し以上債権額合計金二六六万五、一〇〇円を支払うべき義務があるところ、被告は右寒川の以上の債務につき連帯保証した。

二、原告は右寒川に対し被告の連帯保証の下につぎの如く各種化粧品合計金二、四六九万二七一円相当を売渡した。

1、昭和四三年九月中金五六万三、〇九〇円相当

2、同年一〇月中金六五万八九九円相当

3、同年一一月中金五一万九、七七九円相当

4、同年一二月中金三五万五、五六六円相当

5、昭和四四年一月中金三四万四、五六七円相当

6、同年二月中金六三万二二五円相当

7、同年三月中金六一万四、一〇三円相当

8、同年四月中金六三万六九五円相当

9、同年五月中金七〇万九、五〇六円相当

10、同年六月中金一一八万二、五七五円相当

11、同年七月中金一三三万三、一五三円相当

12、同年八月中金七六万四、一一一円相当

13、同年九月中金七五万一四二円相当

14、同年一〇月中金四三万四、五八六円相当

15、同年一一月中金五六万三、二九二円相当

16、同年一二月中金四七万五二〇円相当

17、昭和四五年一月中金二三万二、三九六円相当

18、同年二月中金七三万六、六三二円相当

19、同年三月中金八五万三、一八八円相当

20、同年四月中金八五万三、三〇八円相当

21、同年五月中金九〇万九、五六〇円相当

22、同年六月中金一一〇万一九六円相当

23、同年七月中金一〇〇万四、七七〇円相当

24、同年八月中金八〇万三四四円相当

25、同年九月中金九七万三、三九八円相当

26、同年一〇月中金九六万八〇四円相当

27、同年一一月中金六六万五、六七九円相当

28、同年一二月中金四九万一、九六七円相当

29、昭和四六年一月中金六八万一、八一〇円相当

30、同年二月中金七三万五五七円相当

31、同年三月中金四四万七、〇三二円相当

32、同年四月中金六二万三、一七四円相当

33、同年五月中金四一万九、三〇八円相当

34、同年六月中金七六万六、〇八二円相当

35、同年七月中金九〇万七、四四五円相当

36、同年八月中金三、三八〇円相当

37、同年九月中金一万二、四三二円相当

三、前記一および二記載の原告の債権額合計金二、七三五万五、三七一円に対しつぎの如く合計金二、五〇六万五二一円の弁済がなされた。

1、訴外寒川利明支払分

昭和四三年一〇月五日より昭和四六年九月七日まで前后四九回に亘り合計金二、一四三万七、三四四円

2、被告支払分

(一)  昭和四六年一〇月一日金三〇万円

(二)  同年同月七日金八五万円

(三)  同年一一月六日金五〇万円

(四)  昭和四七年一月六日金五〇万円

以上合計金二一五万円

3、訴外仙台中央シーボン株式会社(以下仙台シーボンという)支払分

昭和四六年一二月中金一二万二、二二〇円

4、訴外菅原和夫支払分

(一)  昭和四六年一一月から昭和四七年二月までの間に金三一万三、三九〇円

(二)  昭和四七年三月から同年六月までの間に金三三万一、六五七円

(三)  同年八月中金三万二、九二五円

(四)  昭和四八年三月中金二万九、三〇〇円

以上合計金七〇万七、二七二円

5、返品分

(一)  昭和四六年九月中金三一万一、七九〇円

(二)  同年一〇月中金三三万一、八九五円

以上合計金六四万三、六八五円

四、よって、右寒川は原告に対し前記一、および二の債権額合計金二、七三五万五、三七一円から三記載の弁済額合計金二、五〇六万五二一円を控除した残額金二二九万四、八五〇円を支払うべき義務があるから、原告は連帯保証人たる被告に対し同金額およびこれに対する原告提出の昭和四七年八月一一日付準備書面送達の日の翌日である昭和四七年八月一九日より完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、被告の本案前の抗弁および本案についての抗弁事実はすべて否認する。もっとも、原告は被告からその主張の如く合計金二一五万円の支払を受けたことはあるが、それは被告の保証債務の一部履行の趣旨にすぎないと述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、「原告は昭和四六年九月末頃被告に対し被告が本件保証債務の履行として金二一五万円を支払えば、その余の保証債務の履行については裁判上の請求をしない旨約し、被告において、原告に対し昭和四六年一〇月一日金三〇万円、同年同月七日金八五万円、同年一一月六日金五〇万円、昭和四七年一月六日金五〇万円合計金二一五万円を支払った。それ故、右不起訴の合意があるのに保証残債務の履行を求める本訴請求は権利保護の利益を欠くものとして却下または少くとも棄却を免れない。」と述べ、本案についての申立てとして、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案の答弁として、

一、請求原因一の事実は認める。ただし、訴外寒川が原告から各譲渡を受けた日は昭和四三年一〇月一日であり、また、譲渡代金合計金二六六万五、一〇〇円は原告が昭和四三年九月中に右寒川に売渡した化粧品卸売代金三〇万三、五〇〇円を含むものである。

二、1、同二1の事実中原告が右寒川に対し昭和四三年九月中に化粧品を売渡したことは認めるが、その余は否認する。右売渡金額は金三〇万三、五〇〇円であり、しかも、これは前記の如く請求原因一の譲渡代金に含まれているものである。

2、同二28の事実中原告が昭和四五年一二月中化粧品を売渡したことは認めるが、その金額は否認する。その売渡金額は金四一万三、二五二円である。

3、同二の事実中その余の各事実は認める。それ故、二記載の売渡金額は合計金二、四〇四万八、四六六円となる。

三、1、同三1および2の各事実はすべて認める。

2、同三3および4の各事実は不知。

3、同三5の各事実は認める。

と述べ、抗弁として、

一、1、原告はその自認する如く、訴外寒川から金二、一四三万七、三四四円、被告から金二一五万円合計金二、三五八万七、三四四円の支払を受けている。

2、原告、訴外寒川および仙台シーボンの三者間において、右寒川が有していた顧客に対する売掛残代金債権金一七八万四、五〇〇円を仙台シーボンにおいて取立て、その三割に相当する金五三万五、三五〇円は仙台シーボンが取得し、残り七割に相当する金一二四万八、一五〇円を原告の訴外寒川に対する前記化粧品売掛代金債権の支払にあてるため原告に送金する旨の合意が成立したので原告は仙台シーボンから右金一二四万八、一五〇円の支払を受けるべき権利がある。

3、原告、訴外寒川および訴外菅原和夫の三者間で右寒川が有していた顧客に対する売掛残代金債権金四〇〇万円中金一六〇万円を右菅原において取立て、その二割五分に相当する金四〇万円を同人が取得し、残り七割五分に相当する金一二〇万円を原告の右寒川に対する前記化粧品売掛代金債権の支払にあてる旨の合意が成立したので、原告は右菅原から右金一二〇万円の支払を受けるべき権利がある。

4、昭和四六年九月中に原告に対してなされた返品額は原告主張の金三一万一、七九〇円に止らず、さらにそれを金八、二一〇円上廻る金三二万円である。

5、原告に対する昭和四六年一〇月中の返品額は原告主張の如く金三三万一、八九五円である。

6、訴外寒川は昭和四六年一〇月二五日訴外菅原和夫に対し金一四万円相当の在庫商品を引渡し、同人においてこれを売却処分し、その代金を原告の訴外寒川に対する前記化粧品売掛代金債権の支払にあてる約束であったから、原告は右菅原から金一四万円の支払を受けるべき権利がある。

7、以上の如く原告が訴外寒川に対する債権につき支払を受けまたは受けうべき金額は合計金二、六八二万七、三八九円であるところ、原告の訴外寒川に対する債権額は被告の主張する如く合計金二、六七一万三、五六六円(譲渡代金二六六万五、一〇〇円、化粧品売掛代金二、四〇四万八、四六六円)であるから、原告の右債権は弁済により消滅し、なお金一一万三、八二三円の過分な弁済を受けていることになる。

よって、被告の保証債務は既に消滅に帰したものである。

二、原告は昭和四六年九月末頃被告に対し、被告がその保証債務の履行として金二一五万円を支払えば、その余の保証債務をすべて免除することを約し、被告において、原告の自認する如く原告に対し昭和四六年一〇月一日金三〇万円、同年同月七日金八五万円、同年一一月六日金五〇万円、昭和四七年一月六日金五〇万円合計金二一五万円を支払ったので、被告のその余の保証債務は免除により消滅した。

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

まず被告の本案前の抗弁について判断する。

≪証拠省略≫を総合すれば、原告会社代表者尾上成司は訴外寒川利明に対する化粧品売掛代金債権等の回収ができなくなったため、昭和四六年九月下旬頃右寒川の連帯保証人である被告との間で、保証債務の履行方につき協議したところ、当時右債権額は確定していなかったが、右尾上は原告会社が資金繰りに窮し、その支払うべき手形を決済することもできず、不渡処分を受けるおそれがあったため、このような事態を回避すべく被告に対し右の事情を具陳し、訴外寒川に対する債権額は未確定の状態ではあるが、当座手形決済等に最少限度必要な金二一五万円を支払ってもらえば後日右債権額が金二一五万円を超えることが判明したとしても、右寒川に対する請求は格別、その超過部分についての被告の保証債務については爾后裁判上の請求をしない旨強く申入れたこと、そこで被告は水戸市役所に勤務する地方公務員であって特段の資産もなくあまつさえ、同年五月四日火災に遭って居住家屋が焼失し、同年八月ようやくこれを新築したばかりであって、経済的に逼迫していたけれども、右寒川が被告の娘婿でもあり、原告会社に対し少くとも金一五〇万円以上の化粧品買掛代金債務等を負担していることは動かし難い事実でもあったので、被告が原告会社に対しその申入れに応じて二一五万円を支払えば、右寒川のため苦境に立たされている原告会社が倒産を免がれ、かつは、被告自身も今后原告会社から連帯保証人としての責任を裁判上訴求されることがないならば、この際無理をしてでも右金員を捻出して原告会社に支払うに如くはないと考えて右尾上の申入れを承諾し、知人の訴外佐藤正に依頼して金二一五万円の立替支払をしてもらったが、その后被告の居住家屋の敷地を売却し、その売却代金を右佐藤に支払って処理したこと、以上の各事実が認められ(被告が原告会社に対し金二一五万円を支払ったことは当事者間に争いがない)、≪証拠省略≫中右認定に反する部分はにわかに措信し難い。

右認定したところによれば、原告が訴外寒川に対し右金二一五万円を超える売掛代金債権等を有するとし、これにつき被告に対し連帯保証人としての保証債務の履行を求める本訴請求は前記昭和四六年九月下旬頃、原・被告間に成立した不起訴の特約に反するものといわなければならない。

ところで、右の如き不起訴の特約は原告がその国家に対する権利である訴権を放棄したものと解すべきではなく、原・被告間の連帯保証契約から生ずる権利関係につき訴訟を提起しないという私法上の債務を負担し、従って出訴禁止の拘束を受けるものというべきである。しかして、本件においては原告は被告との間で前記合意により右権利関係を解決したものであるが、このような権利関係は本来当事者間の解決に委ねらるべきものであるのみならず、原告が右不起訴の特約により出訴禁止の拘束を受けるものとしても、それ自体別段公序良俗に反するものではなく、また民事訴訟制度の目的に背くものということもできない。

それ故、前記不起訴の特約に反して本訴を提起しても、それは弁論主義の行われる本件の如き訴訟に関する限り国家の裁判を求める必要即ち権利保護の利益を欠くものとして不適法であるといわなければならない。

よって、被告の本案前の抗弁はその理由があるので、本案につき判断するまでもなく、原告の本件訴は却下を免れず、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田昭雄)

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